中央構造線に挑んだツーリングのこと
去年の9月に行ったツーリングのこと。
国道152号に(できる限り)沿って走り、未開通国道の凄みを体感しようという趣旨であったが、結果としてR152を酷道たらしめている中央構造線の強大さの前に人類は為す術も無いということを体感することになった。
2021/9/11
この日はR152の南側基点の浜松までの移動であった。道志みちから山中湖、朝霧高原、国道52号を経て海沿いまで出てきた。今回初めて日本平を登ったが曇っていて富士山は見えなかったので割愛。「こんなたいそうな地名を付けて大丈夫なんだろうか」と思いながら静岡茶餡のたい焼きを食べた記憶がある。
海沿いに沿って走り、次に目指したのは大崩海岸だ。
▲石部海上橋
人の手では御しきれなかった大崩海岸の断崖絶壁を避けて海上橋という形で道路が海に張り出している。断崖絶壁には、崩落した土砂で押し潰された旧道が残っており大自然と人の攻防の様子が見て取れる。山の力から逃げて作られた海上橋も、海の力の影響か補修工事が行われていた。
▲焼津港で食べた生桜えび生しらす丼
ちょっと内陸側に入って蓬莱橋を目指す。箱根八里は馬でも越すが、越すに越されぬ大井川、と唄われた大井川を渡る古い木製の人道橋である。古いとは言っても今は改修されて橋脚はコンクリート製である。欄干が低くて風が吹くと割と怖い。
▲蓬莱橋
河川敷は広く橋も900m近くと長いが、川の流れ分は「何とか渡れるやろ」くらいのほんの少しである。もともとはその名の通り大きな川だったのが、上流に水力発電のダムがいくつも作られ、さらに用水路に水が放出されるようになったことで涸れ川になってしまったのだ。訪れたときも、堆積した土砂や砂利を重機で動かして、流れ具合を良くする工事が行われていた。
何とか水を戻すよう訴えてこの状況なのだから、リニア工事の地下水問題にこの地域の人が敏感になるのも分からなくもない。歴史的にも根が深いのでそうそうのことでは解決しないだろう。静岡県の訴えを聞き入れリニア工事は中止した上で、JR東海は静岡県内はこだましか止まらないようにしたら良いのではないだろうか。(適当)
▲小國神社
夕方の早い時間、まだ空いてたさわやかでハンバーグをいただき、早めにお宿に滑り込んだ。ご時世から大浴場は使えず部屋のユニットバスを使ってねとのことで、部屋に引きこもって、持ち込んだビールなど飲み、眠りについた。
2021/9/12
朝起きたら小雨がぱらついていた。行くしかないので雨具を着て出発。
国道152号に挑むと言ってはいたが、序盤は天竜スーパー林道を走る。
ウェットな山道を慎重に焦らずトコトコと登っていく。前にも後にも誰もおらず、静かな山の中にST250のトトトトトトという排気音だけが響く。
▲天竜スーパー林道
観光道路ではないので眺望が良い道ではないが、時々景色の開けている場所がありテンションが上がる。尾根筋に沿って走る道は、気付けば周りの山々より高いところを走っていた。
山住神社で一息ついてさらに天竜スーパー林道を進んでいく。
▲無情な通行止めの看板
また天竜スーパー林道で水窪ダムまで行くことができなかった。以前に来たときよりは進めたものの制覇はまだかかりそうだ。そもそも、林道なので一般車が通って良い状態にまで復旧されるかも怪しい。
ここでスーパー林道を降り国道152号に沿って進むことにする。水窪から北上して最初に当たる峠が、車両通行不能の分断部である青崩峠だ。
▲青崩峠古道
この古道が始まる場所までは車両の入れる道があるのだが、その道も通れなくはないレベルで、かなり狭く急斜度が続いており、二輪では登るのも下るのもなかなかスリルがあった。
草木トンネルと青崩峠の分岐を示す標識等の写真を撮っていたところ、草木トンネル方面から降りてきた軽自動車が結構な勢いで青崩峠方面に向かって入っていった。そんなに急いで見に行くようなところでもないので違和感のある光景として印象に残っている。思い返せばこれはこの先の道の状態を示す伏線だった。
国道152号の不通区間を迂回する兵越峠に向かうと、高規格の草木トンネルから一気に1.5車線の市道に道幅が狭くなる。くねくねの峠道を登っていくと、ほぼ県境の辺りに「路肩崩落 通行止め」の看板と柵が立てられていた。その手前では地元ナンバーの車がUターンをしており、地元の人たちも知らなかったようであった。先ほどの青崩峠の分岐で見た車も、兵越峠が通れず「こっちなら行けるかも」と青崩峠に向かったのではないだろうか。
その路肩崩落部であるが、安全確保の柵は道路幅の半分くらいのところに置かれており、幸いなことに2輪は通り抜けることができた。ここが通れないと、佐久間まで戻って県道1号(こちらも険道である)を北上するという遠回りを強いられるところだったので助かった。
▲下栗の里
国道152号から少し外れて下栗の里へ。こんな道の先に人が住んでいるのか?本当に合っているのか?という道を抜けた先に集落が広がっている。気を抜いたら転げ落ちそうな斜面に広がる集落の様子は人間の執念のようなものを感じた。集落内の道は狭く、全てのカーブがヘアピンなので割とハード。
ここからしらびそ高原の方へ抜ける道もあるが、いずれにしろ地蔵峠を越えることはできないので国道152号に戻った。
長野県道251号線から飯田に回り小渋ダムを経由して大鹿村へ。中央構造線博物館は休館。仕方がない、出発するかと調べたところで分杭峠方面が数日前から通行止めになってることを知る。もういいやと諦め、また小渋ダムの横を抜けて駒ヶ根、伊那と回って高遠に向かった。この辺はナビに従い、無になって淡々と走っていたので写真が無い。高遠に辿り着き、美和ダムが放流しているのを眺めてから宿に転がり込んだ。
振り返ると、走りたかったルートはことごとく自然災害にやられておりいまいち消化不良な1日であった。中央構造線沿いは断層がボロボロ崩れて川が流れることとなり、生物的には生きやすくなって人が集落を作っただけであって、そもそものその脆い地質は文明を築いていく土台として人間が御していけるレベルの物ではない。大自然相手に人間ができることなんてたかがしれている。それでも、人間側が善戦して道路事情が少しでも改善された暁には必ず国道152号リベンジするぞ、と温泉に浸かりながら思ったのである。
2022/9/13
どよよんとした昨日とはうって変わって気持ちの良い晴天になった。有給を取ってのツーリングはスペシャルに気持ちが良い。
国道152号も高遠から杖突峠を経て茅野に至る区間は整備されており走りやすい。
▲高遠ダム。左のゲートのシールが漏れてるね。
国道は上田の方へ向かっているが、流石にこの日は帰りなので南下していく。とは言っても国道20号に沿うだけでは芸がないので、八ヶ岳方面に接近し清里~野辺山方面へ小海線に沿って走った。
▲高原の路をゆるりと走る。ちょっと寒い。
▲レタス街道
大型農耕機がレタス畑の中を行き交うレタス街道から、信州峠を越えてみずがき湖へ。ここからクリスタルライン(荒川林道)を走って乙女湖を経由して甲府盆地を目指す。
林道なので舗装が荒れているところもあるが、木漏れ日を浴びながらトコトコと山の中を抜けていくとても楽しい道だった。自分の4輪では来たくない道路幅なので、2輪に乗るようになって行動範囲がさらに広がったのを感じられニンマリしながら走り抜けた。琴川ダム展望台には、自分のST250と同じようにシートバッグとサイドバッグを装備したSR400がいて、2台並べたら兄弟のように見えた。レトロ系バイクは自然を背景にした姿が似合う。
経路マップ