迎え角30deg.

上向きでも飛んでいかない日々。前に進むだけで精一杯。

VRゴーグルを使ってFlight Simulator 2020で飛んでみた

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Oculus Rift S

先日、FS2020専用のアエルマッキMB-339の機体データがリリースされた。軽快に飛ぶジェット練習機の視界はとても良く、FS2020の精細な風景を楽しむことが出来る。しかし、ハットキーで視界を切り替えて外を眺めるのはなんか違う。真横から真上までが見渡せる開放的なキャノピがあるのにそちらを向くことが出来ない。マウスでコックピットカメラを回すのもちょっと興ざめである。

そうだ、VRだ。FS2020は年末のアップデートでVRに対応していた。

そもそも所謂VRゴーグルというのを体験したことがなかった。これはやってみるしかない。やってみなくちゃ分からない、分からなかったらやってみよう!と、どこかのアニメが言っていた。
しかし、性に合うかも分からない、その後使い続けるかも分からないVRゴーグルをいきなりポンとは買えない小心者である。今回はPC接続型のVRゴーグル Oculus Rift Sを1週間レンタルしてみた。

飛ぶ準備

接続ソフトをインストールして、Oculus Rift Sを接続する。チュートリアルがいろいろあって、いまいち意味の分からなかった輪っかの付いたリモコンの使い方などを学ぶ。この時点で既に机や壁を殴って痛い思いをしている。

FS2020との接続にはまた別途準備が必要になる。この辺を参考にする。

初期状態だと、VRをActivateするショートカットキーと、正面位置をリセットするショートカットキーがアサインされていない。特に正面リセットのキーはアサインされていないと、にっちもさっちもいかなくなるトラップがあるので、忘れずに好きなキーなりコントローラのボタンなりにアサインする。

接続したPCのスペックは次の通り。

  • CPU : Core i9 10900KF
  • RAM : 32GB
  • G/B : GeForce RTX 2080 SUPER
  • SSD : WesternDigitalの青いやつ2TB (FS2020インストールドライブ)
  • コントローラ類 : 以下の記事参照

aoa30.hatenablog.com

いざ飛んでみた

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▲実際にVRゴーグルをして飛んだときの動画からキャプチャではあるが、あくまでVRツールが出力したシーンの左目用映像をプレビューのために拡大して表示しているものでしかない。実際にゴーグルで見えているものとは印象はかなり異なる。

これはすごい。本当にFS2020の空間に入り込んでしまえる。どんなに風景が精細に再現されても、あくまでディスプレイに描かれた「絵」でしかなかったはずのFS2020の世界が立体になるのだ。それを首を回すだけで見渡すことが出来る。VR空間以外の物が視界に入らない世界では、流れている景色を見るだけで体がバグって加速度を感じるくらいである。
上記のスペックであればFS2020標準シーナリーのエリアにVR標準設定であれば滑らかに楽しむことが出来た。密度の濃いPhotogrammetryエリア(東京など)であると若干重くなるが、首を振ったときに絵が遅れてくるのではなく、コマがわずかに飛ぶ感じでゴーグルの動きには付いてくる感じで、絵と加速度が食い違うことの起因する「VR酔い」にはならなかった。

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景色だけではなく、コックピット空間も当然立体になる。普通のディスプレイ表示ではいまいち視界が良くないな…と思っていた機体も、3D空間のコックピットに入ってみると計器板や飛行機の鼻先の関係が分かって納得出来る。また、それぞれの機体のコックピットの広さから機体サイズを実感することが出来るのも楽しい。
操縦桿の影に隠れていて、操縦桿を非表示(!)にしないと操作出来なかったスイッチ類も、VRなら操縦桿の裏を覗き込むことで操作することが出来る。2Dではただ単に並んでるようにしか見えなかったスイッチ類が、ちゃんと意図を持って並べられていることが感じられるのだ。

よかったところ

圧倒的な没入感

これに尽きる。上に書いたとおり。

視界の自由さ

これも上に書いたとおりだが、一番実感出来るのはバンクを取って旋回しているときだ。ハットスイッチで見る「真横」は飛行機の真横なので旋回中は地面しか見えないが、VRなら自然に旋回中心の水平線方向を見ることが出来る。また、場周経路の最終旋回の最中などは、コックピットのピラーで滑走路が隠れてしまうことがままあるが、そういうときに体をちょっと乗り出したり左の窓に体を寄せたりして簡単に空港を視認することができる自由度もVRならではである。
窓に貼り付くように下界を見下ろすことも簡単にできるので遊覧飛行も楽しい。

空間を広く使える

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▲コパイ席に置いたATCウィンドウをチラッと確認しているシーン

チェックリストやATCウィンドウ、VFRマップなどは、普通のスクリーンでは画面の隅に小さく表示するか、必要なときだけONにするなど、フライトの邪魔にならないようにする必要があった。FS2020のVRモードではこれらのウィンドウをVRコックピットの好きな位置に置くことが出来る。これらをフライトの邪魔にならない場所に配置しておけば、ON/OFFする手間も無く、必要なときにさっと確認することが出来る。これは想像以上に便利だ。チェックリストやVFRマップを太もも辺りに置いておけば、ニーボードのように使うことも出来る。

よくなかったところ

画質

VRは描画の負荷が高いのでFSの画質設定は自動的に落とされる。遠くのテクスチャがぼやけて空港を視認しにくくなったり、低空で遠くの地面が滲んだようになるアレになる。もちろん設定で上げることは出来るのだが、当然重たくなってきて体験としては微妙だ。

また、解像度的にもUWQHDのディスプレイに比べれば数段落ちる。外の景色の見え方はそれほど変わらないが、コックピットの計器板は解像度の影響をかなり受ける。せっかくVRで3Dのコックピットを眺め回すことが出来るようになったのに、解像度が低いことにより計器板の数字がぼやけて読めないのだ。特にグラスコックピットの機体は致命的である。数字で表示されている速度や高度が読めず、HSIはどちらを向いているか分からない。アナログ計器は針の位置でだいたい分かるので問題ないのだが、それでもA/Pの設定など数字を読まないといけないところでは同じようなストレスがある。VRなので計器板に顔を近づければ当然数字を読むことは出来るが、これではただの近視である。矯正視力で生活している人間が、せっかくのVR空間でまたド近眼しぐさをしなければならないのは面白くない。

肉体的な負担

加速度

圧倒的な没入感から体に加速度が生じているように感じる、と上に書いたが、結果としてこれは結構な負担となった。飛んでいる最中に酔って気持ち悪くなるようなことはなかったが、問題は遊び終わった後だった。外して普通の生活をしているのに体がゆらゆら動いているように感じるのである。一日中海で波にゆられて遊んでいた日や車に揺られていた日、寝るときに布団の中で体がふわふわ浮かぶような経験をしたことはあるだろう。あれが起きたのである。しかも割と長い時間。
車や海遊びでは実際に体に加速度が作用していたことによる影響だが、VRで飛ぶFSでは実際の加速度はかかっていない。脳みその中で加速度を感じたように処理されていたのが肉体に残っていたのだ。これは結構怖かった。これ以上体がバグるのではと恐怖を覚え連日遊ぶ気にはならなかった。

重さ

これは単純にゴーグルの重さである。景色を見ながらマニューバ中に計器板の方をサッと向こうとしたときの頭の周りの慣性力がしんどい。首の筋肉がどうにかなりそうだった。我々は耐G訓練を積んだパイロットではない。飛んでる最中に気軽に外すような物でもない(外したら何も見えないし)ので、結構頭に負担がかかった。

まとめ

フライトシミュレータの世界に入り込んだような没入感と宙に浮かんでいる感覚はとても刺激的ですばらしい体験であったが、実際に飛行機を飛ばし始めると画質の面、特に計器が読みづらいストレスがじわじわと響いてきた。また、加速度に関しての感覚は遊び続けることへ抵抗感を感じる要素となった。FSへの本格導入はやめておこうかなという感じ。

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FS2020 MB-339@Yokohama
VRスクリーンショットVRではここまでの精細感は(うちの環境では)まだ無かった。