迎え角30deg.

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B787がロールアウト--エアバスVSボーイング

とうとうボーイング787「ドリームライナー」がロールアウトしました。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070709-00000504-yom-bus_all

航空機の製造は、乗用車の製造のようにはいかず数年〜10年近くかかります。しかも開発コストは莫大で、もし作った機体が売れなければ初期投資を回収できないばかりか会社自体が危うくなるような産業です。航空機メーカーは何年も先の航空需要を予測して新たな航空機の設計に取り掛からなければなりません。

現在、民間航空機業界を担っているのはボーイングエアバスの2社です。ボーイングエアバスは、この先20年の航空輸送需要についてまったく違った予測を立てました。

エアバスの予測は"Hub-to-Hub"需要が増えるというもの。"Hub-to-Hub"とは、各国各大都市の大空港(Hub)間を超大型旅客機で結び、Hub空港から小型の旅客機で国内の地方空港を結ぶスタイルです。この需要が伸びると予測したエアバスは、現存機の中で最大のB747を超える500席クラスの大型機A380を設計・製造し、現在試験飛行を行っています。

それに対し、ボーイングは"Point-to-Point"需要の増大を見込んでいます。"Point-to-Point"はHub空港を介さずに、地方空港同士を中型機以下のサイズの機体で直接結ぶというものです。小さめの機体で運行する代わりに便数を増やし利便性を図ります。この需要のためにボーイング社は200席クラスのB787を設計しました。

B787が大量受注を受けているのには、ボーイングのちょっとした戦術がありました。
A380が発表されたのは1994年でした。当時、唯一の大型旅客機としてボーイング747が大量に飛んでおり、中型機以下で勝負してきたエアバスとしても老朽化してきた747の更新需要につけて大型機に手をつけました。
"Hub-to-Hub"需要が受け入れられA380は160機近い発注を受け、製造に入りました。
ボーイングも対抗機種としてB747を改造したB747-Xを提案しましたがエアラインの反応はさっぱりで、「これからはエアバス社の天下か」と噂されるほどでした。

A380

2001年ボーイングは誰も予想だにしなかった計画を打ち出します。それがソニッククルーザーでした。

ソニッククルーザーは、マッハ0.9で他の亜音速旅客機より高速で飛行しサイズはいわゆる中型機程度というものでした。これはボーイングエアバスの"Hub-to-Hub"に対抗して"Point-to-Point"をエアラインに提案した瞬間でした。

航空業界のだれもがボーイングの「奇妙な」機体に目を引かれました。しかし、"Point-to-Point"というコンセプトは斬新であったものの、機体の怪しさが原因でなかなか発注はありませんでした。

2003年ボーイングはソニッククルーザー計画を撤回し、代わりにボーイング7E7(現在の787)を提案します。こちらの機体は"Point-to-Point"というコンセプトのまま「とても普通な」機体でした。また、CFRPを機体全体に適用することで軽量化をし運航コストを下げるという計画でした。2001年のテロや原油高を受けて、大型機をたくさん飛ばす時代は終わったのでは?と考えていたエアラインが大量に飛びつきました。
B787A380に大きな差をつけ、現在も発注数を拡大しています。

個人的には、ボーイング社は鼻からソニッククルーザーを作る気などなかったのだろうと思います。
航空業界の流れがエアバスの"Hub-to-Hub"に行きかけていたのを、ソニッククルーザーという「奇抜な」機体を出すことで自社の考える将来展望"Point-to-Point"に目を向けさせ、B787という現実的な機体を提案することで発注をかき集める。もともとそのような計画であったのだと思います。

エアバスは787に対抗してA350を発表しましたが受注数はさっぱり。

この先、B787の試験飛行で引き渡しまでにどのようなことが起こるかはわかりませんが、現状はボーイングの作戦勝ちと言えそうです。


追記:
B787」で検索してうちのblogに冗談で書いた記事にたどり着く人が意外と多くて申し訳ないです。
http://aoa30.blog17.fc2.com/blog-entry-139.html
ホント下らない…(苦笑)

次世代中型旅客機「787」を初公開、日本でも来年導入へ
7月9日12時55分配信 読売新聞

 【エバレット(米ワシントン州)=小山守生】航空業界始まって以来のヒット作とも言われる米航空機メーカー最大手ボーイングの次世代中型旅客機「787」(通称ドリームライナー)の1号機が8日、米ワシントン州シアトル郊外の工場で組み立てを完了し、報道陣らに初公開された。

 9月ごろの試験飛行を経て、全日本空輸(ANA)が来年6〜7月に1号機を就航させる予定だ。日本航空(JAL)も来秋から導入し、両社にとって主力機になる見通しだ。

 787はアルミニウムより軽い炭素繊維複合材を機体の素材に採用することで、従来の中型機「767」に比べ燃費を約20%向上させた。原油高に苦しむ世界の航空業界がこぞって買いに走り、受注数は完成時点で史上最多の677機となった。中でも羽田空港拡張を控える国内勢は、全日空が世界の航空会社の中で最も多い50機、日航も35機を発注。大型機並みの飛行距離を生かし、欧米、アジア向け直行便などの拡充を図る方針で、旅行客の利便性が増しそうだ。

最終更新:7月9日12時55分