去る2016年3月2日、ボーイング727の初号機が25年ぶりに空に舞い上がった。
この機体は1963年にボーイング727として初飛行し多数の飛行試験を行った後、1964年にユナイテッド航空に納入された。27年間フライトののち、1991年に旅客便としての最終フライトを行いその後はMuseum of Flightに寄贈され、Museum of Flight Restoration Centerにて保管・レストア作業が行われていた。
ラストフライトは、Restoration CenterのあるEverettのPaine Field(KPAE)を南向きに離陸し、Museum of FlightのあるSeattleのBoeing Field(KBFI)に北から着陸進入するほとんど直線のたった15分間のフライトとなった。たった一度のフライトを行うためだけのレストアのため、フラップ・スラットは固定、ランディングギアも下げっぱなし、離陸時のスロットルも控えめで着陸にスラストリバーサは使わないという限定的なモノとなった。
Restoration Centerにてこの機体のレストア作業が行われている様子を何度か見ていたので、この機体のラストフライトを見ることができて幸せだった。この1年半で追っかけてきた様子をまとめてみたいと思う。
2014年7月 レストアセンター初訪問
初の海外出張でシアトルに1ヶ月滞在していた。このとき初めてMuseum of Flight Restoration Centerを訪れた。
腐食したストリンガ
腐食して交換された部品の展示があったり、取り外されたスラストリバーサやスタビライザなどの大物部品が無造作に置かれていたりと大味な展示だと感じたのみであった。
そのときは、屋外で無造作に風雨に晒されていた機体が飛行を目指してレストアされているとは夢にも思わなかった。ここには展示施設がない以上レストアが完了した機体はどこかに運ばなければならないわけだが、そこまで頭が回っていなかったのだ。
2015年4月 レストアセンター再訪
アメリカに引っ越してきた同期を連れてレストアセンターを再訪した。このときにも、まだ外の機体をいじり回しているなぁということくらいしか考えていなかった。あまり変わっていないなぁと思ったくらいで写真もそんなに撮っていなかった。
この訪問後に書いたレストアセンター紹介のブログ記事には「飛ぶことはかなわないコンディションだろうが」などと舐めたことを書いていた。ここは航空大国アメリカであった。部品も技術者もボランティアも寄付金もFAAの認可だって揃うのである。
aoa30.hatenablog.com
2015年10月 レストアセンター再訪
どうやらRestoration Centerで作業が進められている727初号機が11月にフライトするらしいという情報をキャッチし再訪。
No.2エンジンマウント - S字ダクトからインテークの黄色いキャップが見える
この時のレストアセンターの建物の中には、外に留め置かれたFedEx機から下ろされたジェットエンジンと元々付いていたであろうエンジンの併せて6機が並べられており整備が続けられていた。ニコイチ修理だったのかもしれない。ジェットエンジンという飛行機の心臓部のメンテ作業は再飛行の期日が近いのを感じさせた。
「いつ飛ぶ計画なんですか?」と聞いてみるも、老齢のスタッフは「まだまだやらなくちゃいけないことがたくさんあるし、安全第一だからね」と笑って返すだけであった。
2016年1月某日
Restoration Centerの脇から727の姿が消えていた。
数日後、Paine Fieldにジェットエンジンを試運転する共鳴音が響きわたった。現代の上品な高バイパスエンジンの音とは一線を画すJT8Dエンジン3発の咆哮に涙が出そうになった。
2016年3月2日 ラストフライト
数日前からMoFのホームページではカウントダウンが行われラストフライトの日を迎えた。フライトをどこから見るかはずっと悩んでいたのだが、727の着陸姿勢の美しさを見たかったことからBoeing Fieldで着陸を押さえることにした。季節的に南風よりであることや、特別に許可されたフェリーフライトで遠回りをすることはないだろうという読みから、飛行場北側の公園に陣取った。
10時50分頃、離陸する様子を生中継配信で確認、同じく配信を見ていた周りの人たちからも歓声が上がり公園内にも緊張が増してきた。
公園の立ち木の向こうに着陸灯がチラチラと見えてきた瞬間、全身に鳥肌。
近づいてくる機影。すっと持ち上げた鼻先、スピード感を形にしたような大きな後退角の主翼、矢尻のように鋭いT尾翼、機体に対して大きめに見えるたくましいタイヤ、そのすべてをファインダーに収めていく。
最後に、タッチダウン直前の機とMt.Rainierを併せることが出来た。
離陸する側のFuture of Flightでも受け入れる側のMuseum of Flightでも大々的な式典が催されていた。式典には当時ユナイテッド航空で乗務していた方々が来賓として招かれていた。元パイロットのおじいちゃんや元CAのおばあちゃんたちの笑顔が素敵だった。
飛行している727を見たの今回が初めてであったが、その初めてが余りにも劇的な体験であった。
2016年3月5日 機内公開
727の機内が公開されるとのことでMuseum of Flightを訪問。機は到着したときのまま駐車場のど真ん中に鎮座していた。
機長・副操縦士・航空機関士の3人が乗り込みチームワークで飛ばしていた時代。
このコックピットの写真をよく見てみると、計器のいくつかが、「INOP」と書かれたポストイットによって隠されている。言うまでもなくinoperativeのことで機能不全の計器が残っていたのだろう。然るべきリスク対策を行ったであろうMuseumと、このような状態での特別なフライト許可を出したFAA、今回一番アメリカの航空業界の「強さ」というものを実感した点である。
今後
この727初号機は、737初号機や747初号機、787の3号機などとともに2016年7月にオープン予定の新しい展示建屋にて公開される予定である。25年間屋外に置かれていたが、今後は屋内展示である。これでさすがにもう飛ぶ機会はないだろう。ゆっくりその羽を休めて欲しい。